高野ふみ江さんとの日々
@「いいよ、さぁ戻ろう」その言葉と共にいらっしゃったふみ江さん。玄関の前で立ち止まり、表情は強張ったまま。
ふみ江さんの心とは裏腹に、暖かな陽気に変わり始めた3月28日、ふみ江さんのデイサービス始まりの日。
「初めまして、ふみ江さん!」「会えて嬉しいです、宜しくお願いします!」
スタッフからの挨拶に、じっと顔を見つめるのみ。
「ふみ江さん、せっかくいらっしゃったので、お茶でもどうですか?」
「いや、いいいい。さぁ、戻ろう。」
一向に始めの一歩が出ない足。中を覗いては、「戻ろう。」の言葉。
後ろにいらっしゃったお嫁さんも 「お婆ちゃん、大丈夫だよ。お友達たくさんだよ。」と優しい声で話しかけていただく。
「知らないな〜、さぁ戻ろうよ。」
玄関にて覗くこと20分。足は固まったまま。
『このまま、今日は入らない時間が続くかな。』そう思った時
「そこにずっといたら、疲れちゃうよ。こっちおいで。」 中からお誘いが。
声の主は、ふみ江さんよりも3ヶ月早く利用されている敏子さん。
「ほら、こっち。みんなと話そう!」いつも誰にも笑顔の敏子さん。
「何?」そう言いふらっと動かれるふみ江さん。自然な一歩が出た瞬間!
ついに玄関突破!!
『敏子さんの一撃、強すぎる』そう感じたのは言うまでもありません。
「あの方、何かおっしゃっていますよ。近くで聞いてみましょうか。」と問い掛けると、ゆっくりゆっくりと、自ら靴を脱がれ、敏子さんの方角へ。
「よかった。お婆ちゃん。私がいると甘えが出るので宜しくお願いします。」そう言い残し、ほんのり安堵をされたお嫁さんは帰られました。
私たちも少しホッとしたのも束の間。
「あれ、いなくなっちまった。」そう、ふみ江さんは見逃していなかったのです。
「さぁ、帰ろう。」この時10時。
ふみ江さんは昼食前まで、外を気にされ落ち着かない様子でした。緊張もあり言葉数は少なく午後は、炬燵にて過ごされる時間が多い初日となりました。
「ふみ江さん、少しでも安心して過ごしていただけるようにしよう。」
スタッフとの話し合いの結果、趣味であった編み物を提供する事に。次の時は、どのような結果になるのか・・・
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